友人のお母さんから鋼の包丁をプレゼントされ、今まであまり切れないのが普通と思っていた包丁が実は凄く切れる包丁もあると知りました。
次第に「きっともっと凄い包丁もあるはず!」と思い始め、インターネットで調べてみました。
すると、日本には素晴らしい包丁を作る代表的産地があり、それがたまたま当時私が住んでいた大阪にあることを知ります。
大阪府堺市です。
せっかくそんな素晴らしい包丁が造られているのなら、是非とも一生モノの「本気の包丁」を買おうと思い立ち、お財布を握りしめネットで調べた堺刃物ミュージアム(現、堺伝匠館)へ行きました。 刃物ミュージアムには熟練の職人の手により造られた最高峰の包丁が、所狭しと並べられており、職人さんが当番制で店番をしており、私が訪れた日に担当していたのは鍛冶屋の池田辰男氏でした。
包丁についてあまりよく知らなかった私は池田さんに「一生モノの包丁を買いに来ました。どれがお勧めでしょうか?」と聞きました。
池田さんは店内に陳列されている包丁を「これは○○さんの造った包丁でとても良い包丁です、それは○○の形の包丁でとても良く切れます」などと丁寧に説明してくれ、最後に「お恥ずかしいのですが、これは私が造った包丁でして…まぁまぁです」と池田さんの包丁を見せてくれました。
私は池田さんの包丁を購入しました。
白紙2号の本焼き文化包丁です。
その包丁のオーラ、切れ味に私は圧倒され、畏れ多くて暫くは殆んど使わずにいました。
今まで購入していた安物の包丁とは桁違いの値段で、使うのが勿体ないと言うのもあったかもしれません。
そんなこんなで有り難がって奉るだけで何年かは殆んど使わずにいましたが、ある日ふと「ちょっと待てよ、持ってるだけで歳ばかり取って、このままだったら死ぬまで使わずに終わっちゃうよね?!高かったのにそれじゃ元が取れない!道具は使ってナンボ!」と思い直しようやく使い始めました。
1度使い始めたらもうそこからはどんどん使いまくりです。
切って最高、見て惚れ惚れ、料理をするテンションも段違いに上がり、こんなことならもっと早く使うんだったと後悔しました。
その後池田さんはお亡くなりになってしまいましたが、今でもその包丁を握ると「お恥ずかしいのですが…」とご自分の包丁を照れながら紹介していた顔が思い浮かびます。
ちなみに、一生モノの本気包丁、その後どんどんと増えて、今では一生モノの本気包丁達になりました(笑)
結局私の寿命では使いきれない訳ですが、1本1本に思い出や歴史があり、私の人生に楽しみと喜びを与えてくれています。
包丁に限りませんが、自分の琴線に触れる出逢いを大切にしたいなぁとしみじみ思います。
新品の頃はとても綺麗でしたが今では私好みに刃を薄めており、研ぎあとがついています。
生活の中で活躍する道具として生き生きしているように私には見えて新品の時よりも誇らしく思います。
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