包丁研ぎにおける「手研ぎ至上主義」
- kira2kb
- 5月7日
- 読了時間: 4分
店頭で通りかかった方に「ここは電動使うの?」とたまに聞かれます。
話を伺うと「手で研ぐのが一番良い、電動はだめ」という事のようです。
これに私は半分賛成、半分反対です。
研ぐ時の道具別に3パターン説明します。
① グラインダーやベルトサンダーなどを使い、粗い研削機材を使用して研ぐ。
私はこの研ぎ方に反対です。
何故なら粗い研ぎ方だと微調整ができずに研ぎ過ぎる(削りすぎる)事が多いからです。
また、粗い物で研削すると摩擦熱が発生しやすくなり、その熱が金属を変性させて切れなくする恐れがあります。(そこまでの熱が加わる事も稀だとは思いますが可能性はあります)
ではなぜこのような粗い研磨機を使っている研ぎ屋が多いのか?
理由はただ一つ。
早く研げるから
ものの数秒で包丁はガリガリと削られます。
あっと言う間に「仕上がる」のです。
きらら工房に来られたお客様で「他の研ぎ屋に2、3回持って行ったらみるみる包丁が小さくなってしまってショックでした」「戻って来た包丁があまり切れませんでした」と言っていた方が何人もいます。
「電動がだめ」という方はきっとこのような体験を通して、電動研削機に対するトラウマがあるのではないかと思います。
ちなみにこういった粗い研削をする研ぎ屋は概ね安価です。
とにかくバンバン本数を研ぐ事で商売を成り立たせます。
何でもそうですが値段にはそれなりの理由があります。
② 粗くない電動の研削機を使用して研ぐ。
きらら工房ではこの手のタイプの研削機を使用しています。
手で研ぐごく一般的な細かさの砥石に、水をぽたぽたと落としながら電気でぐるぐると回して使います。(水研機)
粗くない砥石なので研削力が弱く、そのため微調整がきき、研ぎ過ぎる恐れが少なく包丁を変性させる程の熱が入る事もありません。(粗い砥石もありますが私は使っていません)
当然こちらの方が包丁には優しい研ぎ方です。
では何故研ぎ屋ではグラインダーやベルトサンダーが多くて水研機が少ないのか。
1本研ぐのにグラインダーやベルトサンダーとは比べ物にならないくらい時間(手間)がかかるから
③ 機械を使わない手研ぎのみで研ぐ。
包丁に熱が入る事もなく、気を付けて研げば研ぎ過ぎる事もありません。
ですが、理想の状態にするにはとにかく時間がかかります。
状態の良くない包丁ですと1本に数時間以上かかる事もざらです。
これを趣味ではなく仕事として成り立たせる事は私にはできません。(研ぎ代をかなり高く設定するなら別ですが)
そして手研ぎのみですと「研ぎ過ぎる」恐れは無いですが「研ぎ足りない」可能性が出てきます。
「ここまで厚みを落とした方が良く切れる」「この変形をしっかり直したら使いやすくなる」そう言った理想を捨てて、刃先のみを何となく切れるようにするだけならそこまで長い時間や手間をかけなくても可能だと思います。
ちなみに、私が刃先だけを研ぐ妥協した研ぎ方をするくらいなら、そもそもきらら工房を始めていません。

たまに店頭で私が研いでいるところを見学される方がいますが、先日研ぎ上がって紙を試し切りし、そしてまたその包丁を研ぎ始めたら見学していた人に
「紙がすっと切れたのにまだだめなんですか?」
と聞かれました。
「ただ切れる状態」にするのは簡単です。
ですが、その向こうまで行かないと「素晴らしい切れ味」には辿り付けません。
そこへ行こうとするかどうかがプロであるかどうかだと私は思っています。
余談ですが粗い電動を使っても絶大な信頼を得て仕事をしている人達がいます。
それは包丁を造っている職人の方々です。
何度か堺の研師の方々の工房をお邪魔させていただいた事がありますが、もう本当に凄い。
私を含む町の研ぎ屋から見たら雲の上の存在。
代々受け継がれた理論と知識、経験に基づいた技術で一本一本を大胆かつ緻密に仕上げています。
わずかなミスが包丁の出来上がりに影響する厳しい世界で鍛えられた職人達であれば、どんな機材であってもその特性を踏まえて安全に使いこなせると思います。
包丁研ぎと言っても研ぎ方や使う機材や包丁に向かうスタンスは全然違います。
手研ぎか機械研ぎかという一つの物差しだけではなく、いろいろな方向から見て頂けると包丁研ぎの奥深い世界を知る事ができると思います。
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